英語のロジックとの出会い

私に託されたもう一つのTaskは技術指導に必要なマニュアルを英文で作成することでした。広範にわたる製造工程を解説し、それらの背景にある技術的なことを解説するのです。これの供与は契約内容の一部でした。したがってお客様に買っていただくものです。自社で海外工場を展開するのとは訳が違いました。でも、この経験は私に英語ロジックと英語に接することの楽しさを教えてくれたのです。

  • 当時海外での事業にまだ本格的な経験の無かったその会社ではそのような英文の資料は皆無でした。さ〜て、どうしようか?しばらく考えました。日本語の原稿は書ける。問題はその先だ。
  • 一つは業界特有の専門用語でした。いきなり専門用語混じりの日本語原稿を翻訳依頼したら絶対、文中の用語のまちまちになる。そう思った私はまず専門用語集を作りました。二人の技術者で800語近くの単語のリストができました。その時点で翻訳会社と契約しました。
  • 翻訳家に来社してもらい実際に製造工程や製品を見てもらいながら適切な単語を800語全部英語にしてもらいました。私は素人ですが、違う?と思ったものは、また日本語の単語の持つ意味を説明し直し、英語でそれがいえていますか?と一語一語確認しながらの作業です。
  • 思い起こせば、来社していただいた翻訳家の方は大きな公的会議で通訳もされる一級の方でした。ぴんときていない私になぜ英語ではこういう訳になるのかをいろいろ教えていただきました。ここで始めて私は英語のロジックに触れ始めます。そして原稿の翻訳が始まります。我々の日本語原稿の執筆との平行作業です。
  • 英訳させた原稿はチェックのために全部いったん返してもらいました。翻訳会社は通常こういうチェックしないんですが、と渋い顔です。でも絶対意図が伝わってないところがあるはずです、と押し通しました。
  • 帰ってきた英文を文章毎にすべてチェックしました。おかしいと思ったものは翻訳家に電話をして確認をしました。なぜ、この文章でその意味になるんでしょうか?相当うるさがられました。この作業を通じて、いわゆる「精読」というものを始めていたのだと思います。そして日本語のロジックが英語のロジックにどう変わるのかを身をもって体験することができたのです。文章の文字面をそのまま英語にしてはいかん、むしろ文章毎に何が言いたいかを見極め、それを英語でいかに短く効率よくいうかを考えないといけない。
  • できあがった英文技術マニュアルは1000ページ以上に及んでいました。